近年のコーヒー

近年のコーヒーブームは、これまでの単なる「嗜好品」としてのコーヒーから、「体験」や「物語」を重視する文化へと大きく変化しているのが特徴です。これは一般的に「サードウェーブ(第三の波)」と呼ばれており、以下の要素が挙げられます。

1. 「スペシャルティコーヒー」の浸透

近年のコーヒーブームの中心にあるのが「スペシャルティコーヒー」です。これは、生産地から消費者の手に渡るまで、一貫して品質管理が徹底された、特別なコーヒー豆を指します。


* 品質へのこだわり: 単に「美味しい」だけでなく、豆の個性、つまり、産地ごとの気候や土壌、精製方法によって生まれる独特の風味(フルーティーな酸味、フローラルな香り、ナッツやチョコレートのようなコクなど)が重視されます。

* 「シングルオリジン」の流行: 単一の農園や地域で生産された豆を「シングルオリジン」として扱うことで、その豆が持つ個性を最大限に楽しむことができます。これは、ワインにおける「テロワール」の考え方に近いものです。

* トレーサビリティとサステナビリティ: 生産者の顔や栽培方法、流通経路が明確である「トレーサビリティ」が重要視されています。また、環境に配慮した栽培方法や、生産者に正当な対価を支払う「サステナビリティ(持続可能性)」も、消費者の関心を集めています。

 

2. 抽出方法の多様化と「体験」の提供

* ハンドドリップの再評価: 一杯ずつ丁寧に淹れる「ハンドドリップ」が、再び注目されています。バリスタが目の前で豆の個性に合わせて抽出するスタイルは、単にコーヒーを飲むだけでなく、その過程や香りを五感で楽しむ「体験」となっています。

* 様々な抽出器具の登場: ハンドドリップ用のドリッパーの他に、エアロプレス、フレンチプレス、サイフォンなど、様々な抽出器具が登場し、自宅で気軽に多様なコーヒーを楽しむ文化が広がっています。

 

3. 多様なカフェの増加とSNS文化

* 「写真映え」する空間: 韓国風カフェや無機質カフェなど、インテリアデザインにこだわったカフェが増加しました。これは、SNSでの情報発信が日常的になった現代において、視覚的な魅力がお店選びの重要な要素となっていることを示しています。

* ユニークなメニュー: フルーツのフレーバーを取り入れたアレンジコーヒーや、アート性の高いラテ、植物性ミルクを使ったドリンクなど、多様なニーズに応えるメニューが増え、コーヒーの楽しみ方が広がっています。

 

これらの要素は、コーヒーが単なる日常の飲み物から、自分の好みに合わせて選び、その背景にあるストーリーや作り手の想いまでを大切にする、よりパーソナルで豊かな文化へと変容していることを示しています。